言の葉の庭 10年代以降のジャパニメーションを牽引する映画監督が贈る、雨の日限定の仄かな恋路。
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皆さん、こんばんは。はじめましての方は、はじめまして。
現役大学生のゼクショーです。
来週11日に、新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』がいよいよ公開されますね。『天気の子』以来の新作ということで、皆さんも注目されている事でしょう。
そんな訳で今回は、新海監督が手掛けた過去作で僕ん中で特に思い出に残ってる作品についてレビューしていきたい。
2013年に公開された、『言の葉の庭』です。
~作品概要~
新海監督の中では『ほしのこえ』、『雲のむこう、約束の場所』、『秒速5センチメートル』、『星を追うこども』に続く5作目となる劇場公開作品。主演は『千と千尋の神隠し』のハク役でお馴染みの入野自由さん、『化物語』で人気声優へと登り詰めた花澤香菜さんが務めます。約46分の短編映画なので、ぺろっと観れるんじゃないでしょうか。
内容的には靴職人の息子であるタカオと、朝から酒飲んで仕事サボってるだらしないユキノが、ある日雨の中の公園で運命的な出会いを果たす恋愛モノ。
結論から言うと、46分という公開時間以上の満足度を得られる見事な作品だったと思います。
このあとに公開される『君の名は。』や、『天気の子』から見た方にとっては、粋なファンタジー演出を絡ませた内容じゃないかと思われるかもしれないが、こちらはかなり現実的。
確かに、過去作でも死後の世界が舞台だったり、飛行機乗って壮大な世界を旅したりみたいな某ジブリ作品を思わせるお話は描かれたりはしました。実際、新海さんもパヤオ(宮崎駿氏の愛称)の大ファンらしいしね。
ただこの作品は思春期特有の淡く儚い現実に抗うような、新海監督が10代の頃等身大で味わったであろう感情が垣間見える感じがして、僕的には凄く好きなんですよね。直近の2作品のような万人受けを狙わない、ありのままの彼の思いを感じ取れるというか。
短編という事で、本筋の内容をほぼネタバレするつもりはありませんが、しっかりと面白い魅力が詰まっていたと思うので早速語っていくとしましょう。
①一瞬で心奪われる"新海節"健在の神作画
新海作品を観たことある人もそうでない方も、まず冒頭で体感して頂きたいのは独特の繊細なタッチで描かれる圧倒的神作画のパワー。
テーマが"梅雨"ということで、シーンの8割以上が雨が降るシーンで構成されている。外に移動する時に濡れる度に憂鬱になるけども、とても綺麗で美しい。
1年の季節の移り変わりの中でも独特の雰囲気が漂う時期を物語として選択しただけでも芸術点高い。あの制限があるからこそ、物語の淡さが際立つというか。
そしてその肝心の描写は、新海監督が「第3の登場人物」と仰られた通りの圧倒的存在感があります。
アニメ的って言葉でひと括りにするには勿体ない位、写真に切り取られたように映像が凄く写実的なんですよね。
冒頭で載せたキービジュ見て頂ければその地点でお分かりかと思うが、雨の日に現物(新宿にある新宿墓苑って所らしい)観に行くよりも綺麗なんじゃないんかなって思う位、公園を囲む木々の実にナチュラルな"緑"の配色やそれに囲まれている公園の配色に惚れてしまう。
普通のTVアニメなら、多くても5色とか6色くらい(予算がなければほぼ単色の)のものを使うのに、この作品は何十通りも組み合わせて描いてんじゃねぇかなって思う位の尋常じゃない数の色が使われているのが分かる。
1カット1カット、まさに"新海ワールド"と言わざるを得ないセンセーショナルな風景の数々。中身も含めて楽しんで頂きたいのであんま言いたくないが、あの次元までくると音消して観ても死ぬほど面白いと思います。
靴を履く時のユキノさんのフェチズム描写など、キャラに主軸を置いたアニメーションや飯作画も勿論素晴らしいのですが、特に僕が好きなのは貴重な雨上がりのシーン。冒頭のシーンではないんですけど一応ご紹介。言葉では説明しにくいんで画像つきで。
公園の周囲。葉っぱにピントを合わせる発想がすでにセンスの塊で、近くで見える風景を前ボケでぼかし、遠過ぎて靄がかかってる木々をぼかすやり方が実に効果的。何よりも水で反射する木々の描写に圧倒される。今朝早起きして観てきたけど、このカットだけ止めて巻き戻して再生するのを5回位くり返しましたね。
1カット1カットが美術館に展示されてる作品だと思って頂きたい....これは大げさ過ぎる言い方かもしれんけど、マジであの神作画に圧倒される事間違いなしかと思います。
②もどかしくも美しい、淡い恋路のドラマ性
46分という短さ、1カット1カットで光る演出、カットを繋ぐアニメの動かし方で勝負している所もあるので台詞は比較的多くはないけども、それでもメインの2人の感情表現は存分に描かれていたのではないでしょうか。テンポ早すぎて物足りなかったって意見がたまに見受けられるけど、全然そんなことないと思いますよ。
決して良好ではない複雑な家庭環境があり、どんなに大人びて強がったとしても未成熟な子供のままであるタカオの感情表現だとか、訳アリで仕事をサボるようになってしまって、色々不器用な部分を垣間見せながらも"大人"としてのわきまえ方をもって彼に接するユキノさんの立ち回り方が、非常に人間味があって面白いんですよね。
根は馬鹿みたいに真っすぐで向上意欲のあるタカオだけど、反骨心が働いて強がりで本心を見透かされようとすれば自分の気持ちを否定したくなる所とか、今以上に自己中だった等身大の思春期をなぞっているかのような気分だったし。
ユキノさんの本心を上手にはぐらかしつつも、他人の思いを柔軟にくみ取る........決して人格者とは言えないかもしんないけど、それでも不器用な彼を一歩リードする大人の対応の仕方で良いと思うしね。
初見で見た時の僕はまだ高1位だったんで、比較的タカオ視点で物語を俯瞰してみてましたが、今観返すとユキノさん視点のキャラ描写もリアルだなって思いますね。
新海さんの趣向が強いのはどちらかというとタカオ視点の描写だとは思うが、普通に大人の方でも感情移入できる内容に仕上がってるかと。
恋愛作品最高の盛り上がり所となる告白のシーンに至るまでそのスタンスを徹底して物語に落とし込んでいったからこそ、終盤の盛り上がりでしっかり感動できたんで本当に素晴らしかったなと思ってますね。
他にも立場や考え方が異なる故に、徐々にすれ違っていく彼らのリアクションや行動の違いだとか、何故彼らが不甲斐ない生活を送るようになってしまったのかを描いた過程だとか、2人の間で愛が深まっていくのを古典的な方法で演出していく実に文学的なシナリオは、淡い物語に更に深いドラマ性を落とし込むと同時にどこか艶やかなロマンチックさを醸し出している。神作画の相乗効果も加わって臨場感半端ないっす。
ただ我々が梅雨の時期が来ればいつも感じてるように、この物語が終始どんよりとしているかといわれればそうではない。冒頭でも述べたけどまだ新海氏が無名で個人的な趣向が強かった時期の作品の為、全体的に閉塞的な側面が強い作風ではあります。
『君の名は。』のラストで奇跡的なハッピーエンドを描いたものとは全く違うが、それでも未来に希望を残す後味の良い終わり方にしているのがま~たベタではあるんだけども、凄く流れが綺麗に締まってて良いんですよね。梅雨の時期が過ぎてお出かけ日和が連続的に訪れた時と似たような感動を味わえるかと思います。
確か来週くらいにAmazon Prime Videoで再配信されるような。
僕は、今週木曜日のド深夜にテレビで放送されたのを録画して観ました。
まあアマプラの他にもね、dアニメストアとかU-NEXTとか、いろいろなサブスクで見れると思うので、この記事を読んで頂いた方にはぜひこの機会に観て頂きたいですね。